弁理士論文試験、短答合格後40日間でやったこと
短答合格時(R6.5.19)の私の弁理士試験スペック
R6.5月時点での私の弁理士試験の知識水準はこんな感じでした。
- R6短答試験:40点(内訳は特実15、意匠7、商標8、条約4、著不6)
- 論文試験の勉強:一応、通年の中上級講座はざっくり8割程度は聴いてはいたが、実際に答練や過去問に手を付けることはほぼしていない。ちなみに、この40日間で本文と柱書の意味を理解しました笑
こんな感じで始まった論文試験の勉強(40日間)でした。とにかく40日で合格水準まで持ち上げないといけないのは分かってるけど、現段階で「どのような点に留意すべきか。」と訊かれても「新喪例。以上」って感じでした。ちなみにR6の短答試験の感想はこちら→弁理士短答式試験、三度目の正直でやっと合格しました。
論文試験史上初の6文字で完結してしまうところでした。さて、ここからあと2994文字くらいは増やしていかないといけない…。どうしようか?といった感じで…。
どのように勉強をしたか
正直、短答疲れが…
短答試験翌日だけは休んだものの、その次の日5.21から論文試験の勉強を始めました。いや…しんどすぎるやろ…。てか、短答合格組(1年目)が免除組に勝てる要素ってあるのか?玉砕覚悟で戦うためにひたすら準備するのってこんなにきついのか…。という感じでした。やっぱり人間、勝機が多少なりとも見えてないとやる気が起きないんですよ。
しかも、そもそもどうやって勉強したらいいかわからんし、何を書いたらいいかわからんし…書いたとてそれがどのくらい合ってるのかもわからんし、解答見たらみんな同じようで違うようなことも書いてるし。根拠条文だって解答例1と解答例2で列挙してるものが違ったりするし…。何を信じて良いのやら?という感じでした。
まず、やってみるか
とはいえ、ごちゃごちゃ言ってても、40日したら試験を受けないといけないし、やるしかないわな。滑り込めたら1年人生巻けるし、お金もかからんし、免除組が1年、2年以上費やしていることを40日に圧縮できたら寧ろラッキー過ぎるのでは?ということで頑張ろう!!と思いました。
しかも、論文試験って短答試験と違って問題数が非常に少ないんですよね。だから、実は論文の方がマーク式の短答式試験よりもラッキー合格があり得ると思うんですよ。この問題直前でめちゃくちゃ書いてたやつや!!みたいなので、そのままなぜか合格したみたいな。
だから、どうせ20カ年遡って、重要じゃないCレベル(いや、Bすらも)の判例をみっちりやることなんて不可能ですし、40日間でそういう戦い方をしても余裕で負けてしまうんですよね。だから、勝ち筋としては、短答ではほとんどしっかり勉強しておらず、結論のみしか知らなかった『趣旨・判例(Aのみ)』は確実に書けるようにするという方法で対策を取りました。
つまり、免除組が広範囲な勉強をしているのに対して、短答合格組(1年目)である私はAレベルのものだけをしっかり書き込むことができれば、Aを濃くやってる分、書き負けることはないだろうという算段でした。無論、BやCが出たら負けるわけですが、ここは40日で仕上げるという目的を達するためにはある程度危ない橋を渡る必要があると思ったからです。
羽生善治さんが『決断力』っていう本で、「圧勝する必要はない。圧勝を追いかけることで負けることがある。確実に100%勝つために身を切る覚悟をしろ。」みたいなことが書いてありました。だいぶ昔に読んだので、うっすらとしか覚えていませんが、読んだ当時はなるほど…。と思いましたね。
つまり、80%の確率で圧勝する方法を選ぶより、敢えて飛車や角などを取られてしまう戦法であり、戦局が一瞬均衡(又は不利)になりかけるとしても、そちらの方が確実に100%に近く勝てるのであれば身を切る方法を取れ。といった感じの話です。
まっ、そんな感じのノリで羽生善治になった気分で論文を書いてました。
簡単な勉強の流れ
これは正しい方法かはわかりませんが、個人的にはド底辺からの爆上げ効果はあったので、あながち間違ってないと思います。
- まずもって、全く書けないので、問題内容を把握したら解答例を読む。
- 読んだら、解答を閉じて、自分でさっき見た解答のモノマネをしてみる。
- 解答例と自分の解答を突き合わせて、挙げられていない条文や項目をピックアップする。
- 気づいたことをメモっておく(審査請求忘れるな!とか、直接侵害からまず検討せよ!とか)。
- 並行して、趣旨と判例を覚える。
これを繰り返す感じでした。手書きは週に1、2度。ほとんどPCで全文書きをしてました。短答合格組(1年目)で、ほとんど書いたことがない人は正直、手書きも週1は最低、あと答案構成だけじゃなくちゃんと全文書きをPCでやるということは、やったほうが良いと思います。書き慣れてなさすぎるので。まあ一受験生の戯言なので軽く読んでもらったら良いんですが笑
具体的にやったこと
具体的に40日間で行ったことを列挙しておきます。実戦答練第4回は間に合わずに試験日を迎えました…。短答試験に全振りしてたので、仕事も短答後に溜めちゃってたところもありまして…。
- 過去問(令和の4年分、平成の1年分)を全文書きと復習
- 直前ゼミの受講(毎週日曜)と答練(計4回分)
- 四法の趣旨・判例を覚える
- ゼミで配られた予想論点(計10個くらい?)を全文書き
- 論文実戦答練の計4回×(特実・意・商)=12回のうち、10回ほど(?)書いて提出
締め切り効果を積極的に使おう
論文試験の自分なりの勝ち筋を立てることで、自分で自分のやる気を出させたことと、もう一つ考えていたのは、締め切り効果を積極的に使おうということでした。40日という限られた時間ですから、一瞬で急成長を遂げる必要があります。どっちにしろ、今回の論文で落ちてしまったとしても来年受けることになるし、せっかくならば今年受かって早く受験生を卒業したい。論文試験の結果が分かってからはまたしばらく来年度の論文試験まで時間があるから、この40日ほど濃厚に勉強もできないし、色んなやり方を試そうという気概が出ないかもしれない(というか出ない)。
ということは、この40日間でワンチャン合格できれば前述の通り超ラッキーだし、仮に落ちたとしても急成長を無理やりできる、モチベーションが自然と高まるゴールデン期間なわけです。まあ短答後で心も身体もボロボロなんですが。
実際、受かってるかどうかは分かりませんが、40日間のうちで直前ゼミでの成績もどんどん上がっていきましたし(初回はほぼ最下位なので上がるしかないんですけど笑)、この40日間の素地があれば、もしダメだったとしても来年度の勉強をスムーズに迎えられるであろうという算段も込み込みでした。
まあでも、40日間で受かったら超ラッキーお得ですよね!というモチベーションでやってたわけですが。こういう人生の中での能力向上のための実験的な機会ってそんなに多く訪れるわけじゃないので、40日で受かったという成功体験を基に、今後の人生もどんどん巻いていけるかもしれないし、そうする自信をつける礎にしたいという目論見もありました。まあ、人生そんなに甘くないので、受かってるか知りませんが笑
短答後で疲れまくってたこともあり、大体平日3時間、休日6時間程度の勉強量でした。多分結構少なめ…。短答前の方が勉強してた…。
休息について
休憩がてらに、キッズウォー(Amazon prime)を観て、少年時代に思いを耽らしまくっていました。10年後の8月はもう過ぎましたが?20年後の8月が過ぎそうですが?
あと、禁酒はできず、しっかりと前日まで飲んでおりました(前日は500 mL缶1本)。あと、早起きはムリでした。が、夜中によく目を覚ましていました。きつかった…。てか、短答のときも書いたけど、受験生ひたすらやり続けて、ガストか図書館か予備校にしか行かない生活し続けてるとマジで孤独になってきて頭おかしくなります。5月とか楽しそうにカップルが歩いてるのを恨めしく見てました(←もう末期)。
論文試験の勉強をして気づいたこと
短答合格組(1年目)は全然不利ではない
結論から言うと、短答合格組(1年目)は全然不利ではないと思います。予備校の先生方が口を揃えて、「今の論文は短答とほとんど同じだからね。」という話をされますが、私としても同じような所感です。短答知識をしっかり確立しておけば(つまり、上四法で点数を取れていれば)、論文で訊かれる内容については間違いようがあまりないということですね。特に事例問題はそんな感じです。
そういった意味では、論文オンリーで短答知識が抜けていたという事態になった場合は、上手な構成であっても法律的解釈の部分で短答合格組に負けてしまうこともあるだろうなという気はしました。
あと、短答組にとって一番弱い要素は『論文の書き方』なんかよりも、やはり『趣旨・判例』だと思います(初めて書くときは「どうやって書くねん?」ですが、結局、『規範→あてはめ』の流れだけですから。)『趣旨・判例』は短答で問われなかったり、問われたとしても結論部分さえ覚えておけば大丈夫だったりするので、短答専念組は疎かになる部分だと思います。
しかしながら、大体30~40/100点分くらいは『趣旨・判例』から出題されているので、ここをほったらかしにして論文組と戦うのはナンセンスというか無謀というか…。
ということで、私なりの結論はまとめられている、条文の趣旨集・判例集を一気に小説を読書するように読んでしまってお話を覚えてしまうということだと思います。キーワードなどを拾って正確に書き表すことができるとなお良いのだとは思いますが、こればかりは時間との闘いなので、バランスを見つつですね。
ただ、個人的には趣旨集・判例集を全てかき集めても、趣旨は四法全部で50個くらい?、判例は四法全部で100もないくらい?だと思うので、40日間で詰められない量ではないと思います。どこまで正確に再現できるかとマイナー判例を切るレベルを考える必要はあるかもしれません。
私は趣旨は、掲載されているものの9割程度(訊かれそうなやつだったり、なるほど!と思わされる趣旨のもの)を覚えて、判例はAレベルのみに絞りました。今年の場合はそれで正解でしたね。差止請求権が単独でできるかは判例集のAレベルじゃなかったのかも…。分かりませんでした。一方で、「拒絶審決の取消訴訟について単独可能か。」という問いに関しては、
「一個の権利の成否を判断するものであり、共有者の合一確定の要請を満たす必要があるため、固有必要的共同訴訟と解する。したがって、甲は単独で提起することは可能でない。」
というレベルで書ける感じにしておきました。まあ、Aだけはちゃんと書けるようにって感じです。ボールスプライン軸受事件だとこんな感じで書きました。
「特許請求範囲の構成要素中に、対象製品と異なる部分を存しても、ⅰ)当該異なる部分が本質的ではなく、ⅱ)異なる部分を対象製品におけるものに置き換えても、発明を達することができ、同一の効果を奏し、ⅲ)対象製品の製造時において、当業者が対象製品を容易に想到することができ、ⅳ)出願時において、対象製品が公知技術と同一又は公知技術から容易に推考できたものではなく、ⅴ)対象製品が意識的除外されているなどの特段の事情がない場合には、均等とする。あらゆる侵害態様をあらかじめ予測して特許請求の範囲を記載することを求めるのは出願人にとって酷であり、均等と扱わないとすると、発明意欲が減殺し、社会正義に反し衡平の理念にもとる結果となるからである。」
といった感じです。上記は今、私が何も見ずに打ちこんだものですので、どこまで正確かはわかりませんが、Aレベルの判例についてはこんな感じで再現できるようにはしておりました。これを基に、事例を当てはめていくイメージです。ただ、文言上均等ではないからスタートしないとダメだったんですよねココ。いきなり均等論からスタートしたのが悔やまれます…。
基本、風呂の中で音読しまくるのと、電車の中でブツブツ呟いてました。昼休憩も5要件を空中に向かって話していたので、街行く人たちにヤバい奴に見られていたと思います。受かればよいのです。
短答と論文は並行して勉強をするべき
短答・論文は並行して勉強すべきだと痛感しました。どうしてそう思ったのか。それは、『条文→短答→論文』の順で、具体化していくからです。勉強は具体と抽象の行き来で自分の中に箱を作っていくような作業ですが、まさに論文が超具体例みたいなところで、抽象的でわかりにくい短答の問題や、条文の文言を理解するにはうってつけだと思うんですよね。
40日間の論文試験の勉強でそんな風に思いました。特に条約(と商標法の4条関連とか)。条約ってなんのこっちゃわからないってなりませんか?私は条約の条文を読んでても何のこっちゃわからんし、PCTや184条の話も短答の点数が取れるように勉強をしていたという節がありまくりです。
なので、実際のところどういう風に運用されているのかとか流れとか細かい部分で気になっても、丸暗記をするなどの逃げ方をしていたところがあるんですよね。でも、論文試験ってめちゃくちゃ具体的な内容ですよね。だから、その条文の適用範囲であったり、意味合いが具体例を示されることで色づくような感じがするのです。
そして、このタイミングで改めて条文を読み直した時に「おおおお!!!そういうことか!!!」となるわけです。抽象的な条文だけで理解するのは苦しいから、短答の問題を解いて、条文の理解をしますよね。それを論文まで拡げてやってみな。飛ぶぞ。という話です。
PDCAサイクルはDから。アウトプット命。
結局、勉強もそれ以外も実地体験に勝るもんはないのよ。という話です。インプットとアウトプットって、確実にインプットの方が楽だし、進んでる感が出て自己肯定感を高めてくれるんですよね。だから、ついついインプットに逃げるんですけど、本当にやらないといけないのはアウトプット。論文で家ばとにかく書け。書いて書いてトライアルアンドエラーで、どこでどういう風に間違ってるのかを分析した上で、次に書くときの糧にしろ。ということです。短答だったら、テキストを読むより、とりあえず解け!っていうね。
条文に立ち返って勉強しろ
短答を解いていても、論文を解いていても、それは結局のところどこまで言っても具体例に過ぎなくて、結局、最終的には条文の意味しているところはどういうことなのかというところが大事なのだと思います。そこに立ち返らない限りは1問を解いて、1問を理解するという無間地獄にハマってしまいます。そうじゃなくて、条文に立ち返る作業を繰り返し、具体例を通じて抽象を理解する作業をすることにより、未知問題であったり、違う訊かれ方をしたときに対処できるようになると思うわけです。
だから私はいつも「条文にはこう書いてるのに、どう読んだらこの問題はこう解けるんや!!!」というツイートをしまくってブチギレまくってました。
R6弁理士試験の感想と反省点
受験した感想
論文試験日は正直あっという間でした。5時間も文字を書き続けるわけで、キッツ…って感じなんですが、短答(3.5時間)の方が個人的には疲れましたね。短答は本当に繊細で慎重さが求められる試験です。なので、神経すり減らしてドミノを並べるような試験なんですよね。で、論文は50m走を走りまくる試験。一生短距離走を走るしんどさみたいな。試験が終わってずっと手が痛かったですね…。
選択科目(有機)…頑張ります。また明日から、3週間でボルハルトショアー1400ページを叩きこむ戦争が始まります…。きつい。これ受かったらもう院卒擬制です。
特許法・実用新案法(2時間)
とにかく問題が多い。パッと問題を開いた瞬間に、(いつもより1問多いぞ…。これは答案構成してる場合ではない…)と思い、勢いでガーーーーッと書いていきました。結果は残り2分まで書いていました。ページは4ページまで詰め詰めで書いてます。もうこの時点で手はボロボロ。
問題Ⅰ⑶と⑷で書くことの違いがいまいちよくわからず、同じことを書いてしまいました。⑷は当たってるはず。
問題Ⅱ1では、均等論にいきなり飛びついてしまいました。まずは文言上侵害ではない(特70条1項)が必要ですよね。あー。せむかたなし。
問題Ⅱ2では、特定数量のことを実施相応数量ってずっと書いてるんですよ。アホです。いや、特定数量よな…。
意匠法(1.5時間)
問題ⅡはメジャーA級の判例オンパレードで個人的にはラッキーでした。差止が単独でできる理由がわからなかったのですが(こういうところが短答合格組(1年目)の弱いところ)、消尽論や同一性の欠く特許製品の新たな製造については書けました。ただ、見返してると、同一性の欠く特許製品の新たな製造についてはあてはめが弱いんですよね。
問題Ⅰは⑵で「展望タワーPの仮囲いを外して公開した」というやつ。新規性喪失例外の適用(4条2項)ですよね。いや、そりゃそうやろ。こんなんだれが間違うねん。
「異なる物品への形状の転用となり、創作容易であると推認できる。したがって3条2項になるため、、、、、、関連意匠制度(10条)を利用し、展望タワーPを本意匠とし、置物ロを関連意匠として出願すればよい。」
は?
商標法(1.5時間)
問題Ⅰについてはそれなりに全て書けました。不服・新・別・再・放置ってM先生がよく言ってたのを前頭葉の引き出しの奥の方ごそごそしてたら見つけました。
問題Ⅱこれなあ…。今回で一番良くないわ。26条2号と不使用(50)と使用意思(3条1項柱)と記述的商標(3条1項3号)は書きました。が、記述的商標の当てはめはなんかグダッてたし、かなり微妙。損害不発生の抗弁はまあ、小僧寿し事件がA級の判例だったおかげで書けました。が、これもあてはめ緩めかなあ…。判例の文言をマネして書いてましたが。こういうところが「本筋は合ってますが、丁寧な箇所と雑なところがあります。」と添削で返ってきてしまうところですね。
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