意匠法30条の中用権は後願の権利者にしか与えられない?

意匠権は「類似範囲」までが権利範囲である
取り急ぎ!!!
この記事は加筆修正を加えたいところなのですが如何せん忙しいので、一先ず結論だけ書きます。
- 先願者にも中用権は与えられる場合がある
- 無効理由はどんな無効理由であってもかまわない(例:外国人の権利共有などでも可)
- 趣旨は先後願問題だけではなく、単に無効理由があるのに特許権になったことを信頼して事業をしていた者を保護するというもの
- 要件が充足した場合に中用権が発生するかどうかについては、中用権を発生させないと無効審決でつぶされた特許権を有していた者がその後も実施したとしたならば他人の特許権を侵害する場合に発生する。逆に言えば、そのような特許権がない場合は、何ら中用権は発生しない(∵その後事業を継続してもなお問題はないので)。
- 中用権は無効審決でつぶされた者の事業実施の範囲内において、その範囲で実施していれば他人の特許権を侵害する場合に、その他人の特許権について「事業実施の範囲内において」のみ発生する。
とまあ多分こういう感じです。下に書いたのは色々考えていた形跡です。上は、色々考えて再度加筆したものです。なので、これ以下は特に読む必要はなし。あと、ちゃんとこの記事をまとめるかどうかはまた考えます。アクセスが良かったり、暇になればちゃんと書き直します。
かねがね中用権については疑問に思うことがあったので、その疑問について解説していきたい。「意匠法30条の中用権とは、絶対に後願の権利者にしか与えられないのか?」ということである。
言わずもがなではあるが、中用権とは以下のような法定通常実施権である。
甲:先願A(イ) 乙:後願B(イ)で、いずれも特許権になる。甲が乙に対しB(イ)について無効審判請求をし、乙に与えられる通常実施権。
つまり、ダブルパテントの後願権利者に対して与えられる通常実施権であるというのがスタンダードな説明になるのだが、意匠権の場合、権利範囲は「登録意匠とこれに類似する意匠(意22条)」なのである。
そこで、意匠権における中用権についても考えてみる。
甲:後願A(イ) 乙:先願B(ロ)の場合で、どちらも登録されて、意匠権A(イ)、意匠権B(ロ)となっている場合を想定する。なお、イは、ロの類似範囲に属する。
この場合、無効審判で意匠権A(イ)はつぶされる。この際に中用権が発生するというのが一般的な話である。
ここで、意匠法30条を参照されたい。
次の各号のいずれかに該当する者であつて、意匠登録無効審判の請求の登録前に、意匠登録が第四十八条第一項各号のいずれかに該当することを知らないで、日本国内において当該意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、当該意匠権又はその意匠登録を無効にした際現に存する専用実施権について通常実施権を有する(意匠法30条1項柱書)。
「第四十八条第一項各号のいずれかに該当することを知らないで」なのである。
つまり、別に先願主義9条などに限ったことではなく、別の無効理由であっても文言上、問題ないのである(ないのであるよね?!)。
私が一番引っかかる点はここで、なぜダブルパテントの後願権利者を救済する目的の中用権であるはずなのに、各号いずれでも良いことになっているのかが不思議なのである。
これを踏まえて以下の例について考えてみたい。
甲:後願C(ハ) 乙:先願D(二)の場合で、どちらも登録されて、意匠権C(ハ)、意匠権D(二)となっている場合を想定する。なお、二にのみ類似する公知の意匠が既に存在しており、D(二)は3条1項3号の無効理由(48条1号)がある。
甲は乙に対し、無効理由(意48条1号)があるとして、乙の意匠権D(二)に対して無効審判請求をし、消滅させる。この場合においても、「先願権利者」であった乙に対し、中用権は与えられるのだろうか、というのが私の疑問である。
私の結論はこうである。
特許庁「ダブルパテントなのに後願を特許権(意匠権)にしてしまったのはかなり恥ずかしいよ!!!ぶるぶるぶる><;でも、後願権利者を救う方法は何か手立てを立てたい!!そうだ!中用権だ!!でも、直接、『特許法39条に該当するときは』なんて書いたら、特許庁(審査官)がミスって特許査定(登録査定)出したのがモロバレじゃない!?ようし!!無効理由全部含めちゃえ!!(本当は先願主義だけだけど!)」
こういうことなのかな?と思ってるのだが、違うのか。
ちなみにだが、意匠法にのみこういった疑問が出るわけではなく、仮に特許権の事案であったとしても、外国人の権利共有(特25条)違反をしている先願A(イ)と、無効理由なしの後願B(イ)というパターンであったとしても同様の疑問は出てくる。なぜなら、特許法80条の中用権の規定についても、第123条第1項各号のいずれかに規定する要件に該当することを知らないで」と記載されているからである。
中用権についての疑問「当該意匠権」とは?
この疑問は若干おまけ感があるのですが、「当該意匠権」って何を指してます?
次の各号のいずれかに該当する者であつて、意匠登録無効審判の請求の登録前に、意匠登録が第四十八条第一項各号のいずれかに該当することを知らないで、日本国内において当該意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、当該意匠権又はその意匠登録を無効にした際現に存する専用実施権について通常実施権を有する(意匠法30条1項柱書)。
当該意匠権の前に「意匠権」という言葉が出てこないので、この意匠権は何の意匠権を指すのか疑問です。意匠法30条1項柱書だけを読んでいると、潰された後願の意匠権かのように見えるのですが、意匠法30条2項を読むと、先願の意匠権であることはわかります。
当該意匠権者又は専用実施権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する(意匠法30条2項)。
ただ、1項だけ読んでいると、潰された意匠権(後願)のことを指しているかのようにも思えるのですが、恐らくこれは先願の意匠権のことを指しているのでしょうね。潰された意匠権についての通常実施権なんて意味がわかりませんし。
あと、関連過去問で以下のような問題がありました。
互いに類似する意匠イと意匠ロについての2の意匠登録のうち、イに係る意匠登録を無効にされた場合の原意匠権者が、意匠登録無効審判の請求の登録前に、イに係る意匠登録が意匠法第48条第1項各号のいずれかに該当することを知らないで、日本国内においてイの実施である事業をしているときは、その実施をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、ロに係る意匠権について意匠法30条に規定する通常実施権を有する。
解答は「〇」でした。


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