同志社大学(全学部)化学入試問題解説【2022・大問2】〜模試作成者が解説してみた〜

化学

はじめに

どうも、解説しているニシジマです。化学科を卒業後,予備校で大学受験の全国模試(化学)を作成しているサラリーマンです。今回は同志社大学(全学部)化学入試問題解説【2022・大問2】の解説です。大学入試問題解説の一覧はコチラをクリック!

〔Ⅱ〕

(1)

酸化カルシウムと水を反応させると,水酸化カルシウムができる。酸化カルシウムは生石灰とも呼ばれて,水酸化カルシウムは消石灰(死石灰)とも呼ばれる。名前から考えると,生石灰は生きている石灰で水に入れたら発熱する元気を持っている。消石灰は水に入れても発熱したりしない。発熱する・しないというのはいわゆる反応前と反応後みたいなイメージを持つといいと思うよ。『生石灰+水→死石灰』みたいな感じ。

  • 酸化カルシウム…組成式はCaOで,生石灰と呼ばれる。(エネルギーは高)
  • 水酸化カルシウム…組成式はCa(OH)2で,(消石灰)死石灰と呼ばれる。(エネルギーは低)

(2)

下線部(い)を見れば一目瞭然で,『硝酸アンモニウムや尿素の水への溶解は冷却に利用できる』ということは,『硝酸アンモニウムや尿素の水への溶解は吸熱反応』であるということ。

じゃあ,硝酸アンモニウムの熱化学方程式NH4NO3+aq→NH4NO3aq+Q〔kJ〕のQは負であることがわかる。溶解熱の絶対値が26 kJだから,Q=−26〔kJ〕となる。尿素についても同様。

【参考】

熱化学方程式に出てくる”aq”の理解ができてない受験生ってめっちゃ多いよね。”aq”というのは,”大量の水”を表すんだよ。だから,さっき出てきた硝酸アンモニウムの熱化学方程式をNH4NO3+H2O→NH4NO3aqー26〔kJ〕みたいに書くと完全に間違いだよ。この式だと,1molの硝酸アンモニウムと1molの水が反応したことになる。そうじゃなくて,1molの硝酸アンモニウムを大量の水に溶かしたときに生成する熱量がー26kJということなので,今回はaqを必ず使うこと。

【発展】

希釈熱っていう言葉と溶解熱という言葉があるんだけど,例えばある物質Aを水に溶かす。そのときの溶解熱Q1〔kJ〕を表す熱化学方程式は次のように表すことができる。

A+aq=Aaq+Q1〔kJ〕

このときのaqは大量の水を表すという説明をした。このaqなんだけど例えば5 molくらいの水だとするとまだ完全に希釈されていない。その時の式は,

A+5H2O=Aaq+Q2〔kJ〕

みたいに書けるんだけど,まだ完全に希釈されていない状態なので,Q1>Q2となる(便宜上,右辺は水溶液になることを示すために”Aaq”と書いた)。つまり,ここからさらに水を追加するとまだまだ発熱することになる。この発熱を希釈熱という。5 molでは希釈が十分じゃなかったということだ。これを続けていくとあるところで発熱をしなくなる。この水の量が”aq”ということだ。つまり,これ以上多くの水を入れたところで発熱量はもはや変わらないというところまで希釈されきった(多分,自由水とかどれくらい十分に溶質が水和されているかとかそういうところの話だと思う。)といえる水の量を指す。この量は(溶質にも依るが)概ね水20 molとかそのあたりだと思う。例えば20 molの水で完全に希釈されきったとすると,

A+20H2O=Aaq+Q1〔kJ〕……⑴

のように立式できる。じゃあ21molの水を使ったらどんな式が書けるのかというと,これまた,

A+21H2O=Aaq+Q1〔kJ〕……⑵

と書けるわけ。つまり,式⑴におけるaqは20 molの水(=大量の水)を指し,式⑵におけるaqは21mol(=大量の水)を指すことになる。もちろん,1000 molの水を用いて熱化学方程式を書いたとしても,

A+1000H2O=Aaq+Q1〔kJ〕

のようになり,このaqは1000 molの水を指すことになる。Aaqというのは,完全に希釈されきった溶質 Aの希薄水溶液ということだ。

(3)

(ⅰ)

反応式を書いて,反応量を考えて筆算するだけで答えは出てくる。N2:O2=4:1なので,N2は40 mol,O2は10 mol存在することがわかる。反応式は次の通りになる。

C3H8+5O2→3CO2+4H2O

筆算は次のように書くことができ,各物質の物質量がわかる。

(ⅱ)

(a)

着目する点は,H₂Oの状態だ。(a)で与えられている式より,『H₂O(気)』の熱化学方程式を書くことになる。問題で与えられている冒頭の式①は『H2O(液)』である。ここがこの問題のミソである。ここで,(3)の問題文を見ると,水の蒸発熱は44.0 kJ/molと書かれている。つまり,1molのH₂Oを蒸発させるためには44.0 kJの熱量が必要だということだ。

これをエネルギー図に表すと,次のようになる。

これらを踏まえて,再度考えてみよう。式①は『H₂O(液)』で書かれた化学反応式であった。その反応熱Q=2220 kJ/molであった。では,この式を『H₂O(気)』で書かれた熱化学方程式に書き直すとすると,どうすれば良いだろうか?答えは上図中に書いた『H2O(液)+44.0=H2O(気)』を用いて式①を書きなおせばいいだけの話。

C3H8+5O2=3CO2+4H2O(液)+2220 kJ……③
H2O(液)+44.0=H2O(気)⇔ H2O(液)= H2O(気)ー44.0 kJ……④

式③に変形した式④をぶち込めば自ずと解答が出てくる。

C3H8+5O2=3CO2+4(H2O(気)ー44.0 kJ)+2220 kJ

こんなに杓子定規に説明しておいてなんだが,式③は問題文に書かれているようなもんなんだから,2220 kJから蒸発するために必要なエネルギーを差し引かないといけないよねっていう感覚で解答まで導けなかったらガチで致命的だと思うよ。数式としてでなく,意味や感覚を理解して解こう。

(b)

容器内にある気体はO2とCO2とH2OとN2のみ。合計で,5+3+4+40=52 mol存在する。さて,この52 molという大量の気体を2044 kJで温めると何度になるか?という問題。

問題文より,『気体1 molの温度を1 K上昇させるのに必要な熱量は30.0 J/mol・kである。』とのこと。では,気体52 molの温度を1 K上昇させるのに必要な熱量はいくらだろうか?

30.0×52=1560〔J〕必要であることがわかる。つまり,

気体52 molの温度を1 K上昇させるのに1560 J必要であるということ。さてここで,2044 kJを使えば気体52 molの温度はどこまで上昇するだろうか?もはや小学校の算数レベル。

1560 Jで1℃だから,2044×103 Jで2044×103/1560≒1310〔K〕上昇することがわかる。反応前の気体の温度が300 Kだから,1310+300=1610〔K〕となる。

【参考】

今回の問題で与えられた30.0 J/mol・Kは定圧モル比熱Cpという値。物理選択の受験生にとってはなじみのある言葉だと思う。モル比熱というのは簡単にいうと,”その物質の温まりやすさ”みたいなものを表している。例えばモル比熱が30.0 J/mol・Kの物質Aと40.0 J/mol・Kの物質Bがあった場合,どちらの方が温まりやすいだろうか?答えは物質Aである。1 molの物質Aはたったの30.0 Jを与えるだけで1℃上昇させることができるが,1 molの物質Bは30.0 Jを与えても30.0/40.0=0.75〔℃〕しか上昇しない。つまり,”モル比熱が小さい=温まりやすい”ということだ。

今回は定圧条件下だったので,与えられた値は『定圧』モル比熱である。もし,定積条件下で実験をしていたとしたら,与えられる値は『定積』モル比熱ということになる。定積モル比熱と低圧モル比熱。さてこの値は等しいだろうか?

損失というのは内部エネルギー変化に使われないということです。

もし,等しくない(=つまり,定圧条件で液体を温めるときと定積条件で液体を温めるときは,液体の温まりやすさが変化するということ)としたら,どちらの方が値は大きいだろうか?この答えのヒントはマイヤーの関係式(CpCvR)である。外に仕事を”してしまう”定圧変化”と外に仕事をしない”定積変化”。外に仕事をしてしまうということは与えられた熱量を十分に内部エネルギーとして取り込めないということだ。定圧と定積どちらの方が液体は温まりやすいか考えてみよう。

(c)

これを見たらわかるし,今まで解いてきた流れでわかると思うけど,H₂Oは容器中に4 mol存在することがわかる。そのうちの36.0 gは液体の水として存在している。では,気体として存在している水(=水蒸気)の量はいくらか?という問題。4×18ー36.0=36.0〔g〕瞬殺。

(d)

(c)で求めた通り,水蒸気の量は36.0 g = 2 molとなる。さて,今容器中に入っている気体の物質量はいくらだろうか。水蒸気H₂O+酸素O₂+二酸化炭素CO2+窒素N2=2+5+3+40=50〔mol〕存在する。気体の状態方程式より,PV=nRT ⇔ 1.0×105×V=50×8.3×103×300の式を導出すれば良い。なお,P=1.0×105〔Pa〕なのは,下線部(あ)からわかる。

(e)

300 Kにおける水の蒸気圧〔Pa〕をどう求めれば良いだろうか。一つ目の方針は,水蒸気について気体の状態方程式を立ててみる。二つ目の方針は,水蒸気の容器中のモル文率から圧力を求める方法がある。ちなみに,どちらで導出しても数値は出てくる。水が36.0 g存在する条件下における水蒸気の圧力なので,その値は『飽和』蒸気圧である。水蒸気は2 mol存在することから,水蒸気について気体の状態方程式は次のように表すことができる。

PV=nRTPH2O×1245=2×8.3×103×300(PH2Oは水蒸気の飽和蒸気圧)

よって,

PH2O=4.0×103〔Pa〕

まあ,二つ目のモル分率から求める方が自然な気もするが…。

この記事を書いた人

人生に惑うアラサー。このままでええんか?と一念発起。本屋で知財検定と出会い2級に合格。2021.3.15から弁理士試験の勉強スタート。R4は25点、R5は38点。R6必須論文合格、選択科目落ち。R7最終合格!化学科卒業後に予備校に就職。化学を担当。twitterID : @nishijima1029

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