はじめに
どうも、解説しているニシジマです。化学科を卒業後,予備校で大学受験の全国模試(化学)を作成しているサラリーマンです。今回は同志社大学(全学部)化学入試問題解説【2022・大問1】の解説です。大学入試問題解説の一覧はコチラをクリック!
〔Ⅰ〕
(1)
(あ)(い)
周期表を見てくれ。スカンジウムScから”遷移元素“って言うんだけど,K,Ca,Sc,V の電子配置を見てみるとScから内殻に電子が入ってるんだよな。それを”遷移する”っていうからScから遷移元素っていう名前が付いてる。
(う)
“酒のアテ“っていう縄文時代からある語呂合わせ。君も一度は聞いたことがあるだろう。土の中に含まれている元素の多い順番に”酒のアテ(酸素,ケイ素,アルミニウム,鉄)“で覚えると良い。最近の私の酒のアテは貝ひもが多い。
(え)
コークスって炭素のことなんだけど,コークスの燃焼によって生じるのは一酸化炭素。一酸化炭素中毒っていう言葉を聞いたことがあると思うけど,一酸化炭素って血中の酸素とすぐに結びついて二酸化炭素になるんやな。そのくらい一酸化炭素は酸素と結合しやすい。つまり,めちゃくちゃ酸化しやすい物質(=還元剤)だということだ。
(お)
銑鉄・鋼という言葉を押さえておきたい。まず鉄の原料となる鉄鉱石っていう石がある。この石はただの鉄を多く含んだ石に過ぎないので不純物だらけだ。ここから磁鉄鉱Fe3O4を取り出す。これをどんどん還元していくことでFeにする。まだまだ炭素が多く含まれている鉄のことを銑鉄という。銑鉄をどんどん還元していくことで鋼になり,最終的に純鉄となる。炭素の含有率が少ない順に純鉄,鋼,銑鉄である。銑鉄の”銑“の字を見てると,ああ鉄になる手前なのかな?というのも頷けるなあと思ったり。
(か)
赤錆はFe2O3の組成式で表される。黒錆(磁鉄鉱)はFe3O4の組成式で表される。赤錆というのはいわゆる悪い錆で鉄がどんどんもろくなっていく錆。黒錆は良い錆で表面だけしか酸化されないので内部が酸化されずに守られる。ちなみにFe2O3が赤鉄鉱だと。これって水和物だとどう書くことができるか。Fe(OH)3なんだよね。Fe(OH)3の水溶液の色って赤褐色だよね。繋がった!
2Fe(OH)3=Fe2O3・3H2O
(き)
FeにZnを塗ったものはトタンという。FeにSnを塗ったものはブリキという。トタンとブリキについて押さえておきたい内容は,「どちらもFeの酸化を防ぐために塗ったものであるが,どうしてFeの酸化を防げるのか?」についてである。
結論から言うと,
トタンの場合,イオン化傾向がZn>Feである。だから,トタンが傷ついてZnが剥がれてFeが剥き出しになったとしても,より酸化されやすいZnがFeの代わりに酸化してくれるというものだ。だからトタンは傷がついても酸化されにくい。
ブリキの場合,イオン化傾向がFe>Snである。こちらの方がしっくりくるかもしれないが,酸化されやすいFeを酸化されにくいSnで覆っているというイメージだ。SnがFeより酸化がされにくいんだから鉄剥き出しよりもSnで覆われている鉄(=ブリキ)の方が表面が酸化されにくいよねという話。でもブリキの場合はトタンと違って一度傷つくとSnよりもFeの方が酸化されやすいからどんどん酸化されていってしまうデメリットはあるのだけれど…。
(2)
これは難しい。正直なところ,解き方としては消去法で削っていって「すべて選び」なので,2個とも選んでおくか…といったところだと思う。どの元素がレアメタルなのかとか三元触媒について知っている受験生はなかなかいないと思う。確かに教科書に載っているけど別に覚える必要は全くなし。間違っても良い選択肢だと個人的には思う。(ア),(イ),(ウ)の選択肢が切れないのはやばいと思うけど。
(イ)について軽く触れておくと,根本的な話をすると,元素の性質は最外殻電子の数によって決まる。これを踏まえると,典型元素の場合は縦(=族)に性質が似る。遷移元素の場合は横(=周期)に性質が似ることがわかる。
例えば,アルカリ金属(Li,Na,K…)は典型元素。これらは縦(=族)に性質が似る。
例えば,遷移元素だと,同一周期であるSc,V ,Cr,Mn…(つまり横)に性質が似る。
(3)
(a)
Fe3O4が一酸化炭素COに還元されてFeになるという化学反応式を書けという問題。これはさすがに問題なく書けると思う。
(b)
Feに高温水蒸気を吹きかけるとFe3O4が生成するという化学反応式を書けという問題。
この問題自体はとりあえず,Fe+H2O→Fe3O4という式を書いてしまって,あとは係数をそろえるためにH2発生するよねくらいの感じで解いていけばいけば良いと思う。鉄が酸化されて水素が還元される反応で,イオン化傾向を考えてもFe>Hなので,酸化されやすいFeが酸化されて,還元されやすい(水分子中の)水素が還元されるという話なのでそんなに難しくない。
しかし!!!この問題で一つ思うことがある。それは,
「どうしてFe(OH)3じゃなくてFe3O4なのだろう?」
ということ。多分受験生の中にはFe3O4が提示されてなかったらFe(OH)3で書いてしまう人も続出すると思う。そこでその話について軽く触れておきたい。それは水酸化物の安定性の話である。
イオン化傾向は,Li K Ca Na Mg Al Zn Fe Ni Sn Pb H2 Cu Hg Ag Pt Auの順番だ。ここで,NaOHとFe(OH)3とCu(OH)2とAgOHについて比較する。
まず,AgOHについて。こいつは常温では存在できず,すぐに熱分解(=脱水)を起こして,Ag2Oとなる。これは君も知ってる話だと思う。
2AgOH→Ag2O+H2O
次に,Cu(OH)2について。こいつも80 ℃くらいで熱分解し,CuOとなってしまう。一方で,NaOHは安定に存在し,相当高温にしない限り熱分解などは起こさない。つまり,イオン化傾向が大きい金属の水酸化物は簡単に熱分解をするといえる。なお,この理由について説明するとまた1記事分くらいになってしまうので今回は割愛。
イオン化傾向が大きい金属の水酸化物は簡単に熱分解するということはイオン化傾向がちょうど真ん中あたりのFeは高温であれば熱分解を起こしてしまうと推測できる。そこで,今回の問題に戻ると,Feに「高温水蒸気」をかけるとどうなるか?であった。だから,Fe(OH)3が仮に出来上がったとしても,高温であるから熱分解を起こしてFe3O4が生成しているのだと考えられるのである。
(4)
(ⅰ)
体心立方格子中にFe原子が何個分入っているかをまず考える。図1を見たらわかるけど,真ん中に1つと立方体の頂点のところに(1/8)×8=1個で,合計2個入っていることがわかる。
Feのモル質量がM〔g/mol〕っていうことは,Fe原子を6.0・1023個集めるとM〔g〕になるということがわかる。つまり,体心立方格子中に存在する2個のFe原子の質量は,2/(6.0・1023) × M〔g〕ということがわかる。体心立方格子はa3〔cm3〕であることから密度d〔g/cm3〕は求められる。めちゃ簡単。やってることは”質量を求めて体積で割ってるだけ“なんですね。
(ⅱ)
面心立方格子の格子定数bをrで表す問題。立方体の面を切り取って考えればすぐに解ける。
(ⅲ)
真面目に解くと,体心立方格子1cm3の質量(=密度)を求めて,計算で出てきた質量をもつ面心立方格子の体積って何cm3か求めるということなんだろうけど,それってめっちゃまどろっこしい。普通に考えてみて欲しい。
- 体心立方格子の充填率(原子が立方体中の占める割合)は 68 %
- 面心立方格子の充填率は 74 %
この2つの値から,体心立方格子って面心立方格子に比べると”スカスカ(=低密度)”な構造なんだなということがわかる。
さて,ここで簡単な問題。
綿の密度は1g/cm3,金属Xの密度は5 g/cm3だとする。今,目の前に150 cm3の綿が存在する。これと同じ質量の金属Xの体積はいくらか?
答えは 30 cm3。『150cm3の綿と同じ質量の金属ってどれくらいの体積?』という問題なんだから,150÷(5/1)=30 cm3だよねという話とこの問題は全く同じ。
体心立方格子だとスカスカだから同じ質量でも体積は増える。面心立方格子だと中身が詰まっているから体積は小さくなる。具体的には,体心立方格子の方が体積が74÷68≒1.1倍大きくなるというわけ。だから,答えは1.1cm3となる。
(5)
(ⅰ)
実験①から考えなくても,イオン化傾向から考えてZnが負極になることはわかる。
ちなみに,『実験①から考えて』というのは,Feがイオン化してしまった場合,Fe→Fe2++2e−となる。このFe2+がOH−と反応して,Fe(OH)2の沈殿が生じてしまうが,問題文の通り,何も生じなかったということなので,Znが負極となり,Zn→Zn2++2e−となったという話をしているのである。
(ⅱ)
錆びないことで有名なステンレス。『錆びない』というのは,ステンレス自身は酸化還元反応を起こさないということなんだよな。だから,ステンレス→ステンレスn++ne−みたいな反応を起こしたりしない。代わりに鉄が負極となって反応(Fe→Fe2++2e−)が進行する。
負極→正極にe⁻は流れるので,電子e⁻の流れは左。よって,電流の流れは右となる。
(ⅲ)
負極は前述の通り,Fe→Fe2++2e−なんだけど,この問題で難しいところは正極の反応。どうして難しいかと言われると,水溶液が中性の食塩水なんだよね。だから,酸性水溶液みたいにe⁻を受け取る水素イオンH+がほぼ存在しない。では何が酸化剤となって反応が進行し,電池として回路を形成するのだろうか。
答えは酸素O₂なんだよ。え?酸素なんて水溶液に無いやんけって感じなんだけど,これは溶存酸素って言って空気中の酸素が食塩水に溶けたわずかな酸素のことを指す。これが酸化剤となって反応が進行する。食塩水(Na+,Cl−,H2Oが存在する溶液)で,誰が酸化剤になる?Na+か?まさかイオン化傾向の表で頭の方にくるNa+がe⁻を受け取ってナトリウム金属Naになるわけがない。
H2Oも酸化力なんて皆無。そこで出番になるのが溶存酸素O2なんだよ。これがこの問題のミソとなる。ちなみに正極でO2が酸化剤として反応する半反応式の書き方は次の通り。
① O2を左辺に書いて,H2Oを右辺に書き,酸素の数に着目して係数を揃える。
O2→2H2O
② 右辺のHが余分なので,とりあえずH+で水素の数を揃える。
O2+4H+→2H2O
③ 左辺が電気的に4+となっているので,電子e⁻を追加。
O2+4H++4e−→2H2O
④ 最後にこの水溶液は元々中性の食塩水なので,H+もOH−も存在しない。よって,左辺と右辺に4OH−を足して,左辺のH+を除去。
O2+4H2O+4e−→2H2O+4OH−
⑤2H2Oを左辺と右辺から引く。
O2+2H2O+4e−→4OH−
(ⅳ)
これは非常に難しい。捨て問だと思う。多分同志社を受ける受験生はほとんど書けていないと思う。色々と解答はあるとは思うが,一番納得しやすい話でいくと,実験②は異なる電極(ステンレスと鉄)を使っているのに対し,実験③ではどちらの電極も同じ電極(鉄)を使っているということだ。
例えば,ダニエル電池は電極はCuとZnが使われている。電極のイオン化傾向が大きいものと小さいものを組み合わせることで,互いの金属の『陽イオンになりたいという気持ち』の差を起電力とすることで電池というのはできあがる。つまり,イオン化傾向の大きい金属とイオン化傾向の小さい金属を組み合わせることで大きい起電力〔V〕の電池ができあがるというわけである。
しかし,実験③の場合,どちらも電極に鉄を使っているため,正極と負極にイオン化傾向の大きさに差はない。そのため起電力の大きい電池とはならないため反応の進行が鈍いというわけである。
具体的には,鉄表面の凹凸のうち,凸部分には溶存酸素(酸化剤)がたくさんあるのに対し,凹部分には凹んでいるせいで溶存酸素(酸化剤)は行き渡らない。そのため,溶存酸素(酸化剤)がたくさん存在する凸部分の鉄が正極として,溶存酸素(酸化剤)がない凹部分の鉄が負極として反応が進行するものと思われる。
正極では酸素の還元反応が起こり,負極では鉄の酸化反応が起こる。
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