人類が空気って何かを理解するまでの化学のお話

どうも、大学入試の模試を作ってるニシジマ(ニシジマ@R7弁理士試験(@nishijima1029)さん / X)だぜ。今日は、人類が空気とは何かを理解するまでのお話を紹介します。空気って、どういう成分からできているかご存じですか?
まあ21世紀に生きるあなたにとっては、空気とは窒素78%と酸素21%とその他諸々が1%程度混ざった気体の混合物だっていうことは当然ご存じでしょう。でもさ、よくよく考えてほしいんだけど、まだ化学という学問が確立していない時代。17世紀とかその辺りだと、空気ってどういうものだったと思う?
普通に考えて、「透明な何か気体…?」くらいのイメージが関の山ではないでしょうか?気体と思いつくのも難しいかもしれません。空間にある「何か」について考えまくった結果、ある元素、フロギストンというものが存在するという仮説が立てられました。今日は幻の元素「フロギストン」について解説していきます。フロギストン説とは大体こんな感じです。
- 「フロギストン」という燃焼に関わる元素が存在するということ。
- 空気という1種類の気体が存在するということ。
2.の「空気という1種類の気体が存在するということ」というのは17世紀に生きる人々にとってはすごく理にかなってるというか、そう思っちゃいますよね。現代に生きる私たちにとっては混合物なのは当たり前ですが、当時の彼らにとっては大気を漂う透明な何かを混合物と思うのは難しいと思います。1種類と思う方が寧ろ普通なんですよね。

「燃焼」はフロギストンという物質の放出の過程である

現代の私たちのとって「燃焼」とは物質が酸素と結びつく酸化を意味します。木炭が燃えて灰になる。それは酸素と木炭が結びつくという反応が起こって、灰が残る。そんなイメージです。
C+O2→CO2
という奴です。ちなみにここでいう木炭が燃えることによる灰は、木炭に含まれる不純物(C以外の物)が燃えた酸化物のことを指します。木炭はほとんどCの塊なので、燃やすと大方CO2として大気中に出ていくので、残った灰というのは元々の木炭に比べるとほとんど質量はありません。
話は逸れましたが、17世紀の人たちにとって「燃焼」とはどういうものだったのでしょうか。
「フロギストン説によれば、物質はフロギストンという元素と灰が結合したものである。そして、物を燃焼させると、物質からフロギストンという元素が放出され、灰が残る。」このように17世紀の人々は考えました。
例えば、木炭を燃やす反応はこんな感じです。
木炭 → 灰 + フロギストン
金属を燃やす反応はこんな感じです。
金属 → 金属灰 + フロギストン
上記の反応式からもわかるように、17世紀の人たちは「物質とは灰とフロギストンが結合したものである」という考えをもっていました。

木炭を燃やすとほとんど何も残らず、わずかな灰が残る。これはフロギストンがたくさん含んでるからだ。と17世紀の人たちは考えました。一方で、金属を燃やしたら金属灰ができますが、ほとんど元の金属と同じ量の金属灰が生成します。これは金属にはフロギストンがほとんど含まれてないからだ。と17世紀の人たちは考えました。
物を燃やすと質量が大きくなる?
現代の私たちにとって、物質を燃やすと質量が増えることは当然知られています。これは、単純に生成する酸化物というのは酸素と結びついたものだから、元の物質より重いということです。しかし、先ほども説明した通り、17世紀の人たちにとっては頭の中は「フロギストン説」なんですよね。
フロギストン説に基づくと、「木材=木材の灰+フロギストン」という式からわかるように、物が燃えるという反応は「フロギストンが抜ける反応」であるという認識をしていました。なぜフロギストンが抜けたにもかかわらず、質量が大きくなったのか?これが17世紀の科学者を悩ませる種となりました。

フロギストンって負の質量なんじゃね?とか色々な議論がなされましたが、正直あんまり抜本的な解決には至らず…。
フロギストン空気の発見
ジョセフ・ブラックとダニエル
さて、ここで、17世紀の人々にとっての大前提が出てきます。それは先ほども紹介した、フロギストン説として挙げた「空気という1種類の気体が存在するということ」という話です。空気という1種類の気体しか存在しないという大前提の下で17世紀の科学者たちは燃焼って何やねん!?という議題に対し、奮闘し続けました。フロギストン説を考える上で、17世紀の科学者たちが空気とは1種類の気体だと考えていたという大前提はめちゃくちゃ大事になってきます。

さて、この大前提の下で、実験を行ったのがジョセフ・ブラック。彼は「炭酸カルシウムを加熱すると何か気体が発生するなあ…。」ということを知っていました。
何度も言いますが、17世紀の彼らにとって『気体』とは『空気』のことであり、『空気』とは1種類の気体だと思い込んでるのです。つまり、気体と言えば、ある一つの気体、いわば固有名詞的に『気体』と思い込んでるんですね。だから、ジョセフ・ブラックは「炭酸カルシウムを加熱すると何か『空気』が発生するなあ…。」と考えていたのです。そして、「ろうそくを燃やしたときも気体(=即ち『空気』)が発生するなあ~。」ということを知っていたのです。
もちろん、現代の私たちからすると、炭酸カルシウムCaCO3の熱分解で生じる気体もろうそくを燃やして発生する気体もCO2だということは自明ですが、17世紀に生きるジョセフ・ブラックにとっては気体=空気=1種類の気体ということだったのです。

そして、彼の考えを引き継いだダニエルさんは以下の2つの実験を行います。
- ① 容器中でろうそくを燃やし、ろうそくの火が消える。消えたときに発生した『空気』中で、再度ろうそくを燃やすとどうなるか?という実験。結果は当然火がつきませんでした。
- ② 容器中でろうそくを燃やし、ろうそくの火が消える。消えたときに発生した『空気』を化学薬品で取り除き、再度ろうそくを燃やすとどうなるか?という実験。結果は当然火がつきませんでした。

ダニエルが考えた結論
ダニエル「これって、①の実験ではろうそくの燃焼で発生した『気体』中で、ろうそくを燃やしたから火がつかなかった???のか???つまり、ろうそくの燃焼で発生した『気体』のせいで、再度のろうそくは燃焼しなかったのか???と思って、今度は②の実験を行ってみた。すると、ちゃんと化学薬品で『気体』を取り除いたのに火がつかなかった…。」
ということは…?
ダニエル「これは、ろうそくから発生した『気体』が原因で再度のろうそくが燃えなくなったわけじゃない。これは、ろうそくが燃えたことによって容器内にフロギストンが飽和してしまったからやんけ!!」
と結論付けました。どういうことかというと、ろうそくを燃やすと、
ろうそく → ろうそくの灰 + フロギストン
という反応式からもわかるように、容器内の空気中にフロギストンが飽和してしまって、これ以上フロギストンが容器内の空気中に溶けることができないから燃えないのだ。という結論に至りました。


脱フロギストン空気の発見
その後、ジョセフ・プルーストリーという科学者が、「水銀灰を燃やすと『気体』が発生するんだけど、この『気体』中だと物がめちゃくちゃ燃えるし、この『気体』を吸うとめちゃくちゃ気持ち良い!!!」ということに気づきます。

現代の私たちからすると、この反応は単に、酸化水銀HgOの熱分解なのですが、
2HgO → 2Hg + O2
先ほどから何度も申し上げている通り、17世紀の彼らにとって、気体とは空気であり、空気とは1種類の気体なのです。なので、ジョセフ・プルーストリー的にも「今回見つけた『空気』はめちゃくちゃ物を燃やす性質を持つなあ~。」と考えたのでした。1種類しか気体が存在しないという状況とフロギストン説が横行している世界でこの実験結果を考察すると、こうなります。
ジョセフ「この空気は元々フロギストンを全く含まないので、それだけフロギストンを多く吸収することができ、その結果よく燃えるのだと考えた。そしてこの気体を『脱フロギストン空気』と名付けよう。」
つまり、ジョセフ・プルーストリーが発見した『空気』もジョセフ・ブラックが発見した『固定空気』も彼らにとっては本質的には同じ『空気』なのです。そんな彼らにとって、よく燃える気体というのは「フロギストンを含まない空気(脱フロギストン空気)」という考えに至ったのです。
当然ですが、脱フロギストン空気とは上記反応式の通り、O2を指します。17世紀の彼らにとっては空気とは1種類であり、フロギストンの多寡の違いが燃焼の性質を決めると考えたのですね。気体が1種類だという固定観念があったとしたら一番筋の通る説明がフロギストン説だったのかもしれません。また、空気が1種類の気体から組成されるものという固定観念が強すぎた当時の科学者たちの石頭せいで、フロギストンを含む気体、含まない気体という考えに至ってしまったのです。この固定観念を覆せる柔軟な頭があれば、別の種類の気体なのでは???という考えに至れるわけです。それを成し遂げる人が現れます。そう、ラボアジエ。
フロギストン説の打破!!空気は1種類じゃない!?
さて、ここでようやく登場するのがラボアジエ。近代科学の父です。残念ながら、フランス革命によりギロチンで処刑されてしまう彼ですが、彼の功績は偉大でした。

ラボアジエ「フロギストンなんてねぇやろ??テキトーな論理作り上げやがって。そもそも空気は純物質じゃねぇ。複数の気体からなる混合物なんだわ!!!」
ということを実験で証明しました。
は?天才かよ。
彼は、最初、物質の燃焼とはこのような反応式で生じると考えていました。
金属 + 火の物質 → 金属灰 + 空気
ここでいう「火の物質」とは空気中に存在する質量をもたない燃える性質を表します。金属は空気がもつ燃える性質と出会うことで金属灰になり、空気が発生すると考えていました。
しかし、当時から知られていた物を燃やすと質量が増えることは実験で知られていました。この実験結果と彼の反応式を照らし合わせると、金属から空気が出ていったのにも関わらず、質量増加するという矛盾がありました。
ということは…?もしかして、金属から空気が離れていったのじゃなくて、空気がくっついたのでは?という着想を得ました。
彼はこんな実験も行いました。
密閉された容器内に金属を入れて燃焼させると燃焼後の質量は燃焼前と変わらないが、その後容器に穴をあけると、空気が容器内に音を立てて流れ込み、質量が増える。このことからも、燃焼で質量が増えた原因は、フロギストンではなく、空気中の何かが金属と結合したためと判断した。
容器内にある気体が金属と結合することにより、気体が減った分だけ容器の穴から空気が入っていくんですね。現代化学の視点から言うと、金属に酸素が結合することで、酸素分子の分だけ内圧が下がります。内圧が下がることで、容器に穴を開けると外から空気が入ってくるのです。
いや、ほんまに天才。そうなんですよ。私たちからすると、酸素の結合による質量増加で終わりの話ですが、フロギストン説が横行している世の中でそれを思いつくのは天才としか言いようがありません。
そこで、彼は自身の仮説を以下の通り、書き換えました。
空気 = 空気の基 + 火の物質
金属灰 = 金属 + 空気の基
つまり、空気というのは「空気の基」いわゆる燃焼において性質をもたない透明の質量のある気体と、空気中に存在する質量をもたない燃える性質である「火の物質」。そして、燃焼により金属と空気が結合したという着想から得られた、「金属灰 = 金属 + 空気の基」という式。この2つの式から、ラボアジエは物の燃焼は次の反応式で生じると考えました。
金属 + 空気 → 金属灰 + 火の物質
火の物質というものは現代化学において現実に存在せず、ラボアジエが考えたものでしたが、上記の式から両辺から火の物質を取り除くと、
金属 + 空気の基 → 金属灰
となることは明らかです(∵ 空気 = 空気の基 + 火の物質)。つまり、彼はフロギストンに頼ることなく、現代化学における燃焼にたどり着いたのです。
彼はフロギストン説を否定し、酸素説を作り上げたのです。
空気の基とは何か?
彼にとっての最後の命題は、「金属に結合している空気の基とは何か?」ということでした。彼はジョセフ・プルーストリーが行った水銀灰の加熱による気体収集の実験を行いました。そこから得られた気体(現代化学でいうところの酸素O2)をジョセフ・プルーストリーは「脱フロギストン空気」と結論づけましたが、ラボアジエは違いました。
彼は「空気は2種類存在し、『燃焼に関わる金属に結合する空気の基』と『燃焼に関わらない気体』」であるとしました。つまり、空気とは純物質ではなく混合物であるという新規な着想をしたのです。
これはジョセフ・プルーストリー以前の科学者にとっては思いつくことができない着想でした。だからこそ、それまでの科学者は「空気は1種類であり、フロギストンが多く含まれるか含まれないか」という考え方しかできなかったのです。
ラボアジエが考えた空気の組成である2種類の気体『燃焼に関わる金属に結合する空気の基』と『燃焼に関わらない気体』とは、ラボアジエ以前の科学者が唱えた『脱フロギストン空気』と『フロギストン空気』でした。そして、ラボアジエは『燃焼に関わる金属に結合する空気の基』を『酸素』と名付け、『燃焼に関わらない気体』を『アゾート(生命がない気体という意味)』と名付けました。つまり、窒素です。
フロギストン説は化学の進歩を遅らせたか?
フロギストン説が化学の進歩を進めたか遅らせたかは様々な議論があります。フロギストン説という考え方を挟むことにより、化学を考える思考プロセスが確立されたという意見や、逆に事実と異なる説が横行したことによる酸素説にたどり着くまで100年ほどの期間遅くなった(その結果、その後発見される質量保存の法則の発見や各気体の性質を調べる分析も遅れる)という意見もあります。
実際、物理学などと比較すると化学という学問は新しい学問で、もしフロギストン説がなかったら今の化学はもっともっと進歩していたとも言われたりもしています。物理学は17世紀のニュートン力学によって爆発的に進歩し、数学を駆使して自然現象を記述する学問として確立されました。一方、化学はフロギストン説が根強く残り、燃焼や酸化還元反応の本質が解明されるのが18世紀末のラヴォアジエの時代だったため、物理学よりも100年ほど遅れて体系化されています。皆さんはどう思いますか?
ラボアジエくんは、フロギストン説を否定することに成功し、しかも空気が2種類の物質からなる混合物であることを示したのさ。天才だろ?ニシジマでもさすがに叶わないよ~T_T 真面目にブログ更新するからちゃんと見てくれよな。あと、Xのフォロー(ニシジマ@R7弁理士試験(@nishijima1029)さん / X)もよろしく頼むぜ!
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